山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.78

悪い奴ほどよく眠る 

70歳を少し越えられた、外見も中身も私より格段に立派な方がクリニックにお出でになりました（そんなことがしょっちゅうあります）。
　どうしたのかとお伺いすると、人生相談のようなことで悩んで頭を離れず眠れなくなった、とのこと。
　ことの経緯から、その方の不安・不眠・過敏などの症状は無理もないと十分了解され、「適応障害」の診断で回復の援助を始めることにしました。
　およそ半年後、原因が解決し症状も軽快したのですが、もう少し通院したいとの希望で、その後もしばらくお出でになっていました。

　あるとき、
老紳士：こちらに来た時は、今更人生相談のようなことで恥ずかしいばかりだったのですが、実は私は以前から度々昔のことを思い出して、自分はなんて駄目な人間なんだ、なんて悪いことをしたんだ、と自分を責めて居ても立ってもいられないことがあって…

いかにも、その方らしい率直なもの言いです。

私：実は私も同じでして。つくづく「命長ければ恥多し」と思います。そんな時、こいつは悪い奴だ、というのを思い出して「あんな○○が生きているんだ。何をくよくよ悩む必要があるんだ」と自分に言い聞かせています。

老紳士：そうですか。

私：要するに良い人は悩み、悪い人は反省しないんです。

　老紳士はきょとんとしておりました。
　「悪い奴ほどよく眠る」ご存知、黒澤映画のタイトルですが、うまいことをいうものです。

　古典に曰く、

善人なおもて往生をとぐ
いわんや悪人をや
　　　　　　　『歎異抄』
幸いなるかな心貧しき者
天国はその人のものなり
　　　　　　　『マタイ伝』

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