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コタール症候群
妄想はすべからく奇妙なものだとはいえ、特に奇妙で、どう理解しようとしてもできず、ただ、これこれと記録することしかできない、そんな妄想があります。
その一つ、コタール症候群。
永遠妄想、不死妄想あるいは虚無妄想とも言います。
およそ四半世紀前、私が大学精神科に入局したところ、初老の紳士風の入院患者さんがいました。教授回診の時、若い主治医が教授に、
「まだ、コタール症候群が続いていて……」
などと説明していました。
いかにも知的な―少なくとも主治医や私よりは知的な―印象の患者さんの表情は暗く辛そうで、明らかに会話もしたくない様子でした。
教授はそれを察してか簡単に挨拶して部屋を出ました。
その後、主治医から、その患者さんが便器にがつんがつんと頭をぶつけて自殺を図り、
「俺は死ねない!この苦しみは永遠に続くのだ!俺の脳は腐ったのだ!」
と顔面血だらけにして言っていた、と知らされました。
教科書で知っていたとはいえ、こんな妄想が実際にあるのだとひどく衝撃を受け、人間の可能性と危うさを痛切に感じました。
自分は天才だ、大金持ちだという妄想ならまだ幸せかも知れませんが、こんな妄想は想像するだにごめんですね。
永遠にずっとずっと冬が続く、と思うようなもんですから。
(問)何が悲しゅうて、こんな雪の深いところに住んでいるのか?
(答)春の山菜があまりにおいしいから!
春になる
さくらが枝は何となく
花なけれども
西行
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