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言葉の真実
診療を求めてお出でになる患者さんを診るとき、私は診察室で座して待つのではなく、診察室のドアを開けて、迎え入れるようにして椅子に座ってもらってから診察を始めます。
自然とそんなスタイルになってきました(旅人を迎える気持ちでもあります。実はそんな気持ちから、机も楕円形のダイニングテーブルを使っています)。
それから、患者さんの主訴を聞いて精神の状態を診るわけですが、少しずつ会話しながら核心に迫ります(このとき、大切なのは話すことでなく聴くことです。精神科の仕事は聴くことで、平たく言えば「合いの手を入れる」ことです)。
その時の精神科の武器は何より言葉です。
言葉を通じて患者さんの精神の状態を把握しようとします。
その言葉に軽重があるのです。
患者さんが、辛い、悲しい、死にたい…そう言ったらそのまま受け取ると同時に、その言葉の重さ、リアリティを測ります。
言葉のリアリティが病状の重さの反映であることが普通だからです。
言葉のリアリティがさらに飛躍すると哲学になり詩になるのでしょうね。
『リア王』で長女と次女がリアをいじめて、従者を段々減らし、最後は「一人だって必要でしょうか」と言います。リアは激して一挙にまくし立てます。
ええい、必要を論じるな。
どんなに卑しい乞食でもその貧しさの中に何か余計なものを持っておる。
自然の必要とするものしか許されぬとすれば、人間の生活は畜生同然となろう。
ここで、「必要」は一挙に哲学の領域にまで飛躍します。
そこまでではなくても、やはりリアリティは必要ですね。
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