山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.42

信念に働く無意識

７月16日、原発公聴会が埼玉や名古屋で開かれ、そこで当の電力会社の人が賛成意見を陳述したということで騒がれました。
　私もニュース番組で電力会社の人が意見を述べているところを見ましたが、彼は真剣に自分の信ずるところを陳述しているように見えました。
そして、見ているうちに、彼のその信念は無意識のうちに自分の経済的利益、社会的立場を反映しているものではないか、と思いました。

　振り返ると、私たちが正しいと信じていることも無意識のうちに自分の利益、立場の反映であることがしばしばです。人のことは言えません。
　裁判官をしていれば、「正義を実現するには何より法」と思うでしょうし、銀行に勤めれば、「世界を動かす潤滑油、お金」、寿司屋をやっていれば、「日本人として生まれた甲斐、お寿司！」……
　当初は半分意識的に自分を合理化するための理屈だったのが、やがて自分でもすっかり信じ切ってしまう、そういうことがあります。

　空想虚言という病気があります。
たとえば、「自分は高貴の出」「自分には世直しの使命が与えられている」などと空想しているうちに、次第に自分も周囲の人もその空想の虜になり、いつしか堅く信じ込んでしまう、そんな病気です（迷惑さえかけなければ、幸せといえば幸せでしょう）。
　先の自分の信念に自分の立場が無意識のうちに反映しているのに信じてしまう、というのと似ていますね。

　私たちも時には振り返って、本当に自分は正しいのか反省する必要がありますね。


　まことのことばはうしなはれ
　雲はちぎれてそらをとぶ
　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　賢治「春と修羅」より