山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.4

医療の原点　

精神疾患の原因は見えにくく昔からいろいろ推理されてきました。

すべからく物事は理解されたように対応されるわけで、ギリシア時代、精神疾患は体液の乱れから起きると考えられ、従って治療は瀉血、下剤、吐剤のたぐいでした。

中世、精神疾患の原因は悪魔憑き、祟りなどと考えられ、いきおい、対応は悪魔祓い、加持祈祷となりました。

そして、ルネサンスから現代まで、精神疾患は脳の病気、さらに神経伝達の病気と考えられるようになり、治療も「びっくり風呂」などショック療法から薬物療法の時代になってきました。

現在、精神科の治療は薬物療法が中心で一見、身体科と同じようにも見えます。
しかし、そこは人間、人生を診る診療科ですから自ずから違う面があります。

たとえば外科医が手術を終えた時、「後は天命を待つ、だ」と言うことがあります。
この気持ちは十分わかります。最善を尽くした緊張の時間が過ぎ、一定の達成感が見えます。
悲しいことに、これが精神科にはないのです（パニック障害などの治療では、外科医と似た気持ちになることはあります）。

治療が一段落しても、繰り返し、くよくよと「これでよかったのだろうか？」などと悩むのです。

ですから、いつも治療の最後は祈るような気持ちになります。
どうも、この点は中世の治療と変わりありません。
でも一方で、これこそが医療の原点だとも思えるのです。

 祈るよりほか、わたくしに、すべはなかった……

　　中原中也「妹よ」より

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