山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.28

さよならだけが人生だ 

人生、悲喜こもごもで、良いことも悪いこともあるわけですが、なぜか楽しいことよりも悲しいこと、うまく行ったことよりも失敗したことの方が記憶に残ります。

それで、人生、プラス・マイナス足して零、というより、どうも少しマイナスになる気がするのです。
私が医療で働いているせいでしょうか。

どういうことかといいますと、毎日医療現場で仕事をしていると、治った患者さんは治療が終了になり、目の前からいなくなりますが、一方、治療中の治らない患者さんはいつも目の前にいます。

すると、注意・関心はこれから治療すべき患者さんに向かい、過ぎたことは記憶から薄れていきますので、つい、自分の努力はトータルでマイナス、などと思うのです。

ですから、敢えてうまくいった患者さんの記憶を喚起して励みにしよう、と思います。　

記憶にはいろいろありますが、特に強い感情と結びついた記憶（情動記憶）が今の生活を障害することがあります。心的外傷後ストレス障害ＰＴＳＤといいます。わずかな物音でびくっとしたり、イライラしたり、集中できなかったり、悪夢を見たりします。

ひどい体験が原因ですが、つぶさに見ると、体験というより体験の記憶が原因で、記憶の病ともいえます。

つらい生々しい記憶がアルバムを開くと思い出すくらいなレベルに近づけたら、と思います。

ところで、人生には別離も邂逅もあるのに、別離だけが記憶にたまるように思う、記憶はそんなものなのですね。

井伏鱒二名訳の一節―

花に嵐のたとえもあるぞ

さよならだけが人生だ

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