山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.20

男の値打ち

 「金さえあれば、黒を白に、醜を美に、邪を正に、老いを若きに変えることができるのだ」

とはシェイクスピアの言葉。

　たとえば、女が男を好きになる場合、「あの人も良いし、この人も……でも、あの人は財産があるし……」と、そこまで露骨じゃなくても、金はそんな風に女の気持ちをひそかにそそのかしているのでは、と思うのです（通俗ですね、私が）。

　相手に財産があると気づいたとたんに気持ちは傾くのですが、意識的には「私はあの人の人柄、志に惹かれた」と考える、と思ったのです。

　なんてことだ！金で気持ちが動くのか！男の値打ちが金か！男が見てくれで測られて良いのか！１００ｍを１０秒で走って何が嬉しいんだ！（おれだって、１０ｍを100秒で走れらあ！）１０分でラーメン１０杯食べてどこが偉いんだ！血圧が高い血糖値が高いからってどうだってんだ！

　しかし、ドーキンスの『利己的な遺伝子』を知ってからそんな女の通俗性にも寛容になった。
あれは女のせいじゃない、ＤＮＡがそうさせているんだ、ＤＮＡが金や地位や名声や美貌を求めさせているんだ、と納得した（無理に）。

　しかし、頑なな私は、男が金にうつつを抜かして良いのか、男が越後屋なんかに命をかけて良いのか、いわんや、男がスポーツに……男が……　　　

男にこだわっているうちに、すっかり社会からドロップアウトして、全く赤面せずには語れない半生で反省で……もうちょっと素直に世渡り上手だったら、と思うのです。

　男とうまれ男と交り

　負けてをり

　かるがゆゑにや秋が身に沁む　　　　　　　　　　

啄木

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