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見当識
診察室に認知症とおぼしき人が来られると、必ず「どうしてここに来たのですか?」「今日は何年の何月何日ですか?」「ここは何県の何市で何という医院ですか?」などと聞きます。
これは、その方の見当識が障害されているかどうか確認しているのです。
見当識というのは、自分が置かれている状況の理解のことで、普通は自然と把握しているものです。
たとえば、私達がいきなり見知らぬ人達に誘拐され、目隠しをされて何か月も引きずり回され、見知らぬ土地に放り出されたとしたら、私達はどうするでしょう?
何より「ここはどこだ?」「今日は何年の何月何日だ?」「一体、彼らは何者で、なぜ、こんなことをするんだ?」とあたりを見回して考えるでしょう。そうして見当識の回復を図るでしょう。
しかし、認知症ではそうはしないで、見当識が障害されても障害の自覚がなく平然としています。
翻って、私達自身は自分の置かれている状況をほんとうに理解しているのか、いわば社会的見当識、歴史的見当識をほんとうに把握しているのか、と思うのです。
井上ひさし『組曲虐殺』を読んで、つくづく思ったのは、小林多喜二を虐殺した特高達は自分たちが何をやっているのか分かっていたのだろうか、ということでした。
そして、イエスが磔(はりつけ)にされる時に言ったという言葉を思い出すのです。
父よ、彼らを赦し給へ
その為すところを
知らざればなり
(私は山菜好きの無宗教)
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