山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.165

ケプラーの第一法則〜観測記録への忠誠〜　

地動説はケプラーが生まれる百年以上前、すでにコペルニクスが唱えていますが、ケプラーは惑星運動の三法則によって、地動説に科学的・数学的根拠を示しました。

　ケプラーの第一法則は、「惑星は、太陽を焦点のひとつとする楕円(・・)軌道上を動く」というものです。

　惑星が楕円軌道だというのは、今の私たちは何となく当たり前ですが（幾何学的にまんまるは、むしろ、不気味です）、ケプラーの時代、古代ギリシャ以来の「惑星は真(・)円(・)を描いて動く」というのが常識で、疑いを挟む余地はないものでした。

　ケプラーもはじめは、惑星は真円軌道を動くと考えていました。

　ケプラーは、ティコ・ブラーエの遺した膨大な観測記録を基に、火星軌道を円・周転円（円周上を動く点を中心とする小さな円）などに当てはめようと種々組み合わせ、５年の歳月苦闘しましたが、結局実りはなく、自分の努力は「荷車一杯の紙くず」のほか何も残さなかった、と言います。

　ここで感動するのは、ケプラーがこの間、ブラーエの観測データに疑問を持たず忠実にデータに従い、整合性がなければ、自分の仮説の方が誤りであるとして試行錯誤を繰り返すことです。

　だが、ついに、ケプラーは惑星運動の第一法則にたどり着き、「無駄な人生を送ったと思われなくない」とのブラーエの遺言執行人の役を果たしたのです。



あはれ子の
夜寒の床の引けば寄る
　　　　　　　中村汀女

---