山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.160

世界没落体験　

統合失調症の初期、「自分の周囲が何となく変わった、不気味だ、すべての出来事が意味ありげだ、何か起こりそうで不安だ」などの妄想気分に襲われることがあります。

　これが発展すると、大事件が起こりそうだ、天変地異が起こる！世界の終末が来る！といった世界没落体験に至ります（なかなかここまでは来ないものですが）。

　妄想気分は、患者本人には「世界が変わった」と体験されますが、実は、世界が変わったのではなく自分が変わってきているのです。

　これを端的に表しているのがムンクの『叫び』で、ムンクは次のように書いています。

「私は二人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。
突然、空が赤く血の色に染まった。私は立ち止まりひどい疲れを感じ柵に寄りかかった。
青黒いフィヨルドと町並みの上に炎のような血と舌が被(かぶ)さっていた。
友人は歩き続けたが私はそこに立ちすくみ、不安に震えおののいていた。
そして、私は自然を貫く果てしない叫びを聴いた」

　妄想気分を説明して見事です。

　この叫びは、自分が自分でなくなることへの恐怖と絶望の叫びなのです。


思えば長いこと生きてきたものだ。
おれの人生は黄ばんだ枯れ葉となって風に散るのを待っている。
　　　　　　　シェイクスピア

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