山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.131

患者になってみる！　


　ベテランの医師が患者になった話を聞いたことがある。

　医師曰く―
　患者になったと納得した途端、自分の存在が患者という一点に収斂(しゅうれん)したんだ。
　(Q) What are you ?
　(A) I am a patient.

というわけで、すっかり患者になった気分だった。

　すると、おかしなもんで、自分の子どもより若い主治医だけど、いつも一生懸命だというのが伝わってね。
僕の方でも先生がベッドサイドに来るのを待ちわびるようになった。

　その若い先生は、学会出張に行く時など、未明のうちに「すみません。診させてください」などでと言って来てね。
　先生が不在で回診がないと、代わりにベテランの先生が診てくれるけど、どこか満たされない気持ちになった。

　僕は、ああ、そうだったんだ、としみじみ納得した。

　その先生は若く、技術・知識・経験は未熟だと思うけど、僕は先生の熱意を通して見える今の医療に叶う限りの信頼を寄せていたんだ、と思った。

　特に嬉しかったのは、夜、先生が出張の帰りに僕の病室を訪ねて、「すみません。お変わりなかったでしょうか？」と顔を出してくれた時だった。
　僕は恥ずかしながら、待ちわびていた恋人が現れた少女のような気持ちになってね。嬉しかった。
僕は医学を志した初心を思い出したよ。一度は患者になるべきだね。

とそのベテランの医師は話し終えた。


　先輩の言、納得です。




憶(おも)ふ圓(えん)通(つう)に在(あ)りし時

常に吾が道の孤なるを嘆(たん)ぜしを

柴(しば)を搬(はこ)んでは龐公(ほうこう)を懐(おも)ひ

碓(うす)を踏んでは老盧(ろうろ)を思ふ

入室敢えて後(おく)るるに非(あら)ず

晩参(ばんさん)毎(つね)に徒に先んず

　　　　　　　　　　　　　　良寛

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