山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.123

疾患の自然経過　

白神山地の原生林、礼文島の原生花園……などなど。

　これらには人の手が加わっていない自然の微妙な均衡・美しさがあります。
　この天然・自然がまた考えさせるのです。

　どういうことかといいますと―


　Ｃ型肝炎ウイルスに感染したとします。
　このまま何もせず見ているとどうなるか？

　典型的には、急性肝炎→慢性肝炎→肝硬変→肝癌、という経過をたどるでしょう。
　これがＣ型肝炎の自然経過natural courseです。

　こんなコースをたどることなく元の健康な体に戻すのが医療です。


　さて、精神科の最大テーマ＝統合失調症の自然経過はというと、実は1952年のクロルプロマジンの開発まで統合失調症は治療法がほとんどなく、抗(あらが)いようもなく自然経過をたどるしかありませんでした。

　しかし、今では薬物療法はさらに進み、統合失調症と診断されると薬が投与されるため、その人の自然経過はほとんど見えなくなっています。

　1952年以前の精神科医は治療法もないまま未知の疾患に立ち向かっていました。

　彼らはひたすら患者に向かい、克明に見て、考え、そして書きました。

　彼らの遺した統合失調症の記録は私たちに「統合失調症とはこういうものだ」という自然経過を明確に示し、後世に、その自然経過を食い止め、患者を本来のあるべき姿に戻せよ、とエールを送っているようにも見えます。


　原生林、原生花園を思い浮かべたら、疾患の自然経過に思い至った次第です。




　花あれば
　西行の日とおもふべし
　　　　　　角川源義

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