山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.106

嫉妬妄想 

　嫉妬妄想。オセロ症候群とも言います。『オセロ』に描かれる将軍オセロの悲劇の原因が嫉妬妄想だからです。

　嫉妬妄想―夫、または妻が浮気をしているに違いないという妄想です。

　男性が血相変えて、「（妻が浮気相手の）男を逃がしたんだ！台所の窓が開いていたんだ！」と10cmくらいの隙間を指してわめいたり、「小声で歌を歌った」「美容院に行った」「道で振り向いた」などと言って騒ぎます。
ごく些細な何でもないことが不倫の動かぬ証拠として挙げられます。
　嫉妬は「こんなのはどこでもあるよ。犬も喰わないよ」と言えますが、“嫉妬妄想”は妄想で、「話せば分かる」とはいかない、了解を越えた量から質への変化があります。
　ところが、薬が効くのです。
　嫉妬に薬が効くのか？と思われそうですが、妄想だから効くのです。生物学的変化だから効くのです。
　嫉妬妄想は年に数人診ますが、あまりに人間的で、いつも興味をそそられます。
嫉妬妄想だけの人もいますが、統合失調症や認知症、アルコール精神病の一症状として見られることもあります。


　漱石の『行人』に一郎の嫉妬妄想が描かれており、その中のニーチェからの引用―

孤独なるものよ
汝はわが住居(すまい)なり

　漱石の手にかかると、嫉妬妄想も詩にまで昇華されるのかと感動します。
つくづく、精神科はいつも人間的なものを相手にしているのだなあ、と思います。



子を負ひて
雪の吹き入る停車場に
われ見送りし妻の眉かな
　　　　　　　　啄木

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