山下メンタルクリニック - 新潟県小千谷市の精神科 心療内科 神経科

No.103

ある婦人の話 

　YouTubeで、アメリカの80歳以上の老人を対象とした「人生で最も後悔していることは何か」というアンケートの動画を見ました。

　曰く、「チャレンジしなかったこと」「他人がどう思うか気にしなければよかった」「もっと自分の情熱に従うべきだった」…などなど。

　人生の節目節目に、「もっと勇気を出して自分に正直であるべきだった」と後悔していました。

　あるご婦人の話。
　婦人が小学生だった頃、同級生の女の子が突然いなくなった。
婦人も他の同級生も胸に重いものを抱えながら、そのことに触れられなかった。

　そして、時は去り―婦人は女学生になっていた。

　夏の暑い日。学校からの帰り道、後ろから見慣れないバスが不自然にゆっくり走ってきた。
その不自然さに胸騒ぎを覚えながら脇によけると、窓に若い女性の顔が見え、一瞬目と目が合った。

あっ！と息を呑んだ。バスの女性は小さく手を振ったように見えた。〇〇ちゃん！

婦人は近寄ろうとして止まった。そして、手を振ることもなくたたずみ、バスは埃を残して去って行った。

　婦人は帰宅し部屋でこらえきれず泣いたという。

　今に至るまで、近寄れなかったことを、声をかけられなかったことを、手を振れなかったことを……ずっとずっと後悔していると言う。

　らい療養所に隔離されたという〇〇ちゃん……私はどうして！婦人は声を詰まらせていた。


青春二十一、遅くはない。
　　　　　吉川英治『宮本武蔵』

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